ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

11.夏の終わりに君が死ねば完璧だったから

【紹介日】
2022.8.24(水)


【今回の物語】
『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』

 

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【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

斜線堂有紀


【出版日・公開日】
2019年7月25日


【出版元・製作元】

メディアワークス文庫

 

【あらすじ】
片田舎に暮らす少年・江都日向は劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。

そんな彼の前に現れたのは身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子だった。彼女は死後三億円で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛ける。

相続の条件として提示されたチェッカーという古い盤上ゲームを通じ、二人の距離は徐々に縮まっていく。しかし、彼女の死に紐づく大金が二人の運命を狂わせる一一。

抱えていた秘密が解かれるとき二人が選ぶ『正解』とは?(裏表紙より引用)


【感想】

意思の弱い少年・江都日向と、自分を貫く女性・都村弥子。二人の交流と共に物語は進行します。

田舎の島の中に異質に存在する終末病棟で交流を重ねる二人の様子が、非常に印象深いです。最初は弥子に振り回される江都の様子が印象に残りますが、次第に弥子の病状の進行に気を引かれていきますね。

時に垣間見える、死に対する恐怖を露わにする弥子の姿。その儚さこそが彼女の本当の姿だと私は感じました。

 

弥子の死が現実味を帯びると共に、物語は『最愛の人の(物質的な)価値』と、『愛という(精神的な)価値』の衝突へと進んでいきます。

偏見かもしれませんが、マスコミが江都を囲む様子は、彼らの醜さを如実に表現していると私は感じました。

江都に群がる醜い報道者達に、大金の前に挙動がおかしくなる島民達。思わず目を逸らしたくなる様な人間の欲深さ、意地汚さに晒されながら、お互いの心と向き合うふたり。弥子の口から語られる真実は、私としては予想が出来なかったものでした。

 

ここで私が特に面白いと感じたのはですね、構図としては弥子が日向の真実を暴いているのですが、弥子自身によって彼女の過去も暴かれていく様子が素晴らしいと感じました。

お互いの全てを曝け合ったふたりは、最期の逃避行を始めます。ここでふたりが申し合わせたかの様に支度を進める様子は、物語最大の魅せ場だと私は感じました。

車椅子に乗った弥子と共に駆け出した江都。辛い状況になっても決して目を背けず、ひたすらに目的地へと進んでいく彼の姿は、決意の深さが滲み出てくる様ですね。

 

目的地へと辿り着いた日向に意図を確認する弥子。全てを捨てることで“ふたりの心”を表現しようとする彼の行動は、きっと大人達からすれば「馬鹿な子ども」として批判をされるのでしょう。でも、私はそんな真っ直ぐさが、海面に映る太陽の如くキラキラと輝いている様に見えました。

結果として目的は達成出来ず、病院へと連行されてしまったふたり。しかし、その決意はお互いに確かな道しるべを与えることとなりました。

 

誰もが一度はぶつかる悩みだと思いますが、人生の価値とは何なんでしょうね。

名声があることが価値なのか、財産があることが価値なのか、権力があることが価値なのか。

しかし、どれだけ残すものがあろうと、死人の最後は骨しか残らないんです。そんな常識を覆す『もし、死人に金銭的な価値があるとすれば。』という世界。これって、本当に衝撃に満ちた考え方だと私は感じました。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
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