ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

8.ハーモニー

【紹介日】
2022.3.29(火)


【今回の物語】
『ハーモニー』

 

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【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

伊藤計劃


【出版日・公開日】
2014年8月15日


【出版元・製作元】

早川書房

 

【あらすじ】
21世紀後半、〈大災禍〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉構成社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ駆逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は飢餓することを選択した一一それから13年。死ねなかった少々・霧彗トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはずの少女の影を見る一一。(裏表紙より引用)


【感想】

“最も過激にディストピア社会を描いた物語”というのが鳥頭が抱いた印象です。

“健康を害するもの”が規制される社会とは、どんな世界なのか。とりあえずお酒が禁止されている時点で鳥頭にとっては息苦しいですね。

そんな世界で要職に就きながらも、裏取引を行いアルコールやタバコを仕入れる主人公・トァン。彼女の姿にはある種の信念を美しさを感じさせると、鳥頭は感じました。

 

ディストピアとひと言で表しても、実際にほ様々な世界があります。私はディストピア社会といえばロボットや超越者など、絶対的な管理者がある事で統制された社会が思い浮かびます。

この『ハーモニー』という世界においての管理者とはなにか。ナノマシンによる体内管理を利用した人類統制という考え方は非常に興味深いものだと私は感じました。

メタルギアソリッド』というゲームシリーズでナノマシンに統制された兵士が作中の核として登場しますが、今作では全人類がその統治下となります。

突如牙を剥くナノマシンの脅威は心身を削るものだったろうと私は感じました。

 

トァンが上司の策謀によって故郷・日本へと送還された時、同時多発に起こる自殺事件。その真相へと迫る中で、彼女は自身の過去へと対峙する事となります。

禁制品を手にする事で反抗の意志を見せるトァンはは魅力的ですが、幼少期・子供ながらに統治社会へと反抗するトァンもまた魅力に溢れております。

かつて仲間達と自殺を試み、生き延びてしまった彼女が見せる葛藤。予想もしなかった真実に対して彼女が選んだ答えはどこまでも社会的な様であり、どこまでも利己的だと私は感じました。

 

既に手遅れとなった世界の中で、自分の信念を貫いて世界の終わりを迎えるトァン。

その呆気ない終焉の中で、彼女は一体どの様な感情を抱いたんでしょうね。

読み直す程に登場人物達の心理が気になる、非常に面白い作品だと私は感じました。

 

こうした作品に触れる度に考えるのですが、人間という存在はどれだけ非自然的で、自己陶酔に満ちているのでしょうね。私は、人間は色々と考え過ぎた結果に『過ぎたものを望み続ける怪物』となってしまったんだと思っております。

社会を尊重する故に自己を失うハーモニーの住人達は、最期にどの様な思いを抱えていったのでしょうね。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
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