ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

14.和菓子のアン

【紹介日】
2023.2.28(火)


【今回の物語】
『和菓子のアン』


【作品媒体】

小説

 

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【著者・監督】

坂本司


【出版日・公開日】
2012年10月20日


【出版元・製作元】

光文社文庫

 

【あらすじ】

デパ地下の和菓子店「みつ屋」で働き始めた梅本杏子(通称アンちゃん)は、ちょっぴり(?)太めの十八歳。プロフェッショナルだけど個性的すぎる店長や同僚に囲まれる日々の中、歴史と遊び心に満ちた和菓子の奥深い魅力に目覚めていく。謎めいたお客さんたちの言動に秘められた意外な真相とは?(裏表紙より引用)


【感想】

作者様自身も述べられておりますが、和菓子ミステリーとは本当に珍しい題材だと私は思います。

日本の『掛詞』の文化とミステリーという組み合わせが小気味よく、それらを繋ぐ和菓子というキーワードがまた物語を引き立たせます。アンちゃんは掛詞の事を駄洒落と非難しておりましたけどね。

 

様々な上生菓子と共に物語は進行します。鳥頭は和菓子を愛しておりますが、私も知らない名称や由来が多数登場し、章ごとに登場する和菓子の紹介には胸が踊りました。

また、登場人物は個性に溢れておりまして、これが物語に味わいを加えます。個人的には、河田屋の店主が最も印象に残りました。私は「ものづくり」に従事しているのですが、職人さんって本当に個性的で、しっかりとした「自分の世界」を持っておられますよね。

 

みつ屋での業務を通して、様々な出会いと共に成長していくアンちゃん。最初はふわふわとした佇まいが印象的な彼女が自分なりの考え方を深めていく様は、ついつい頁を捲る指に力が篭もってしまいます。

一見すると唯我独尊、自由奔放なみつ屋の店長である椿。彼女の衝撃的な過去が明らかになったところで物語は幕を閉じます。

 

前半はインパクトのあるエピソードが目立つ反面、後半では心に突き刺さる感動的な裏話が明かされていきます。

魅力的な物語が並ぶ作品ですが、私は特に河田屋の店長が初登場する章が印象に残りました。

物騒な言動を繰り返す、怪しい風貌の男。「半殺し」というキーワードが登場した事で、私は漸く彼の素性に気が付きました。

 

この物語は和菓子というテーマと合わせて、デパ地下という要素も含んでいるのが、更に面白味を付与しますね。

季節や時間による客層の変化やタイムセールでの戦い、閉店後の裏側など、デパートという施設は戦場の様ですね。確かにタイムセール間際の張り詰めた空気などは、私自身も感じたことがあります。

 

身近にある世界で広がる、地平線が見えない様な大きな舞台。その情報量をぐっと固めて出来たのが個性豊かな登場人物達だと考えると、妙に納得をしてしまいました。

最後に登場する、スフレが美味しい喫茶店の店員。非常に印象的な言動で物語の締め括りに貢献する彼女は、以降の作品の主人公なのか、以前の作品の主人公だったのか。

非常に魅力が際立つ人物でした。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
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