ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

12.ランチ酒

【紹介日】
2023.1.12(木)


【今回の物語】
『ランチ酒』

 

f:id:birdheads:20230111065142j:image


【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

原田ひ香


【出版日・公開日】
2020年10月20日


【出版元・製作元】

祥伝社

 

【あらすじ】
犬森祥子、バツイチ、アラサー、職業は「見守り屋」。営業時間は夜から朝まで。様々な事情を抱える客からの依頼で人やペットなど、とにかく頼まれたものを寝ずの番で見守る。そんな祥子の唯一の贅沢は、夜勤明けの晩酌ならぬ「ランチ酒」。別れた夫のもとで暮らす愛娘の幸せを願いながら、束の間、最高のランチと酒に癒される。(裏表紙より引用)


【感想】

夜間の仕事『見守り屋』の一員として、昼夜逆転の日々を送る犬森祥子。彼女が仕事明けの拘りとしてランチを肴にお酒を嗜む姿は食への感謝に溢れており、その至福の様子には同じ酒呑みとして敬意すら感じます。

自由に見える裏側で、過去に縛られ、愛娘との距離に苦しむ祥子。ランチ酒を楽しんでいる姿の裏側に、頭の中を空っぽにして眠りたいという切実な事情があるのが意外に感じました。

 

様々な出会いを繰り返しながら、少しずつ前へと歩み出す祥子。そんな彼女がとある料理を巡って愛娘とすれ違う様子は姿は心に響くものがありました。

どんな優良店でも出せない、その家ごとの[家庭の味]。娘への愛からそこに辿り着いた彼女の姿は、母親の偉大さを感じさせました。

少しずつ前へと向き直りながら、新たな一歩を踏み出して行く祥子。彼女の姿は本当に力強く、輝いて見えてしまいます。

 

私が特に印象的だった物語は、息子から老いた母親の見守りを依頼されるエピソードです。

仕事で家を空ける必要がある男性から、痴呆が進行している母親を見守ってほしいと依頼を受ける祥子。

何度か依頼を受けていた相手という事もあり

いつもの様に対応をする祥子ですが、この日は彼女から意外な申し出があります。

彼女の願いを聞き入れ、夜の買い物に出掛ける二人。この行動がきっかけとなり、他者を自室に入れたがらない母親の、本当の理由が明らかになります。

 

食の彩やかさが印象的なエピソードが並ぶ中、純粋に美しい光景が広がる様子には息を呑んでしまいました。

老いには勝てず、陰気な様子が目に付く母親の暗さが目に付く序盤。一転して後半からは、趣味を楽しみ、しっかりと胸を張って生きる彼女の明るさに目を奪われてしまいました。

エピソードの締め括り、鮨を肴に粋なランチ酒を楽しむ祥子の姿が、また気持ちが良いです。

 

一冊の物語としては終わりを迎え、彼女の物語としては始まりを迎える。今後の展開が本当に楽しみな一作だと、私は感じました。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
- See you next story ! -