ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

10.TUGUMI

【紹介日】
2022.6.23(木)


【今回の物語】
TUGUMI

 

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【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

吉本ばなな


【出版日・公開日】
1992年3月10日


【出版元・製作元】

中央公論新社

 

【あらすじ】
病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの最後のひと夏をともにする少年に出会った一一。少女から大人へと移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く、切なく透明な物語。(裏表紙より引用)


【感想】

病弱ながらも活力に溢れたつぐみの姿が非常に印象的です。周囲を巻き込む騒動を起こしては体調を崩して寝込むつぐみと、彼女と腐れ縁で結ばれたまりあ。ふたりの穏やながらも慌ただしい日々とともに物語は進行します。

まりあの過ごす穏やかな日々と、つぐみの過ごす刺激的な日々。物語に緩急を付けるその様子には、ついついページを捲る手が進んでしまいますね。

物語に大きな影響を与える第三の導き手・恭一が登場する事で物語は更に大きな畝りを見せるとともに、ひとつの方向性を得ます。

私の個人的な見解ですが、突拍子もない言動で周囲を振り回してばかりだったつぐみの暴風が、恭一の登場によって、彼を目とした台風に変化した様に感じますね。

恭一という人物もまた、面白い存在ですね。真摯ながらもその家業により、島へと波乱を与える恭一。

最初はつぐみという暴風に目劣りする台風の目が、気付けばつぐみに並ぶ目に成長している様子が物語に魅力を与えていると私は感じました。

波乱万丈な物語ですが、冒頭から登場するキーワード『犬』による事件が勃発する事によって、その騒動は山場を迎えます。

恭一の飼い犬「権五郎」を巡る事件において、初めてつぐみの本質が垣間見えた様に私は感じました。ただのお騒がせ者で終わらない、つぐみという女性の芯の強さ。権五郎の敵討ちを決意した彼女の鋭い姿には、そんな強靱さが滲み出ていると私は感じました。

つぐみという人物の強さが際立つ本作品ですが、それだけに最後の手紙が体現する彼女の儚さがまた、印象に残ります。

最期を迎えると感じた彼女がまりあに向けて綴った手紙。その内容には、彼女がやっぱり病人である事への再認識と、彼女が抱く本心が書かれている様に私は感じました。

あんなに強いつぐみですらも逃れる事が出来ない『病』という恐怖。我々ならば、どうやってそんな大敵と向き合うのだろう。そんな事をつらつらと考えながら、私はその表紙をそっと閉じました。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
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