ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

15.人形浄瑠璃(文楽若手会)

【紹介日】
2023.6.24(土)


【今回の物語】
義経千本桜 すしやの段』

『傾城恋美脚 新口村の段』

『釣女』

 

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【作品媒体】

人形浄瑠璃


【感想】

今回は久しぶりに文楽鑑賞に赴いたので、その紹介をさせて頂きます。ネタバレ回避の為に映画鑑賞は紹介しておりませんが、200年以上前の作品なんで大丈夫かなと。解読書も多数出版されておりますしね。

 

吉野、新ノ口と、今回の演目が奈良が舞台でした。

最初の演目は『義経千本桜』となります。

開幕一番、「なれ」の二文字から展開される掛け合いが気持ち良いですね。とある「すし屋」を舞台に、主要人物が紹介されていきます。

文楽では基本的に、中心となる人物が序盤で紹介されます。長大な物語を部分的に取り上げるという性質上、これは当然の演出ですね。更にその展開が濃密な中身へと繋がっていきます。

荒くれ者として登場する「いがみの権太」

実母を脅して錢をせびる姿、乱れた佇まいが印象的な彼ですが、その演出は最後に活きてきます。

人形浄瑠璃という作品の特長として、その人形の姿が上げられます。基本的には三人一組、精緻な演技が出来る「文楽人形」には、その見た目にも特長が付けられております。

権太は諸肌を脱ぎ、乱れた姿が印象的で、まさに「悪ガキ」といった様相。錢をせびり、自分が跡を継ぐと喚き散らす姿が非常に印象的です。そんな彼だからこそ、最期には胸を打つ演技を魅せます。

幕府に従い、実父から恨みをの一撃受ける権太。文楽では、次に紹介する『傾城恋美脚』もですが、文楽ではこうした「命懸けの行動」が好まれる様に感じます。

単純な思考ですが、現代を生きる我々の心を打つその覚悟ある姿は、やっぱり昔から尊重し、敬愛されていたのでしょうね。

ここで特に鳥頭が面白いと感じたのは、鎌倉幕府という組織と、吉野という舞台です。吉野といえば南北朝の動乱、劇中でも鎌倉幕府の追手から権太は、南北朝時代の豪族・奥山金吾の様だと称賛を受けます。我々からすれば南北朝の英雄といえば「大悪党」と名高い楠木正成ですが、立場が違えばその評価も変わるのが実に印象的でした。

大切なもの全てを賭して平維盛を助けた権太。彼の死と共に幕を閉じる物語は、心に深く残り続けます。

 

次に上演されたのが『傾城恋美脚』となります。最初の演目が一転して、次は純愛を題材とした物語となります。

冒頭から女房の強烈が受け答えが印象的です。文楽においてこうした「掴み」は、物語を圧縮する為の基本技法とも言えますね。

ひと段落したところで、中心人物である梅川・忠兵衛が、場違いな姿を舞台へと晒します。

奈良の片田舎、水呑百姓が当たり前の村落に瀟洒な姿で現れる二人。雪の積もる家屋を背景にすることで、その特異性は更に際立ちます。

縁故を頼りに村落を訪れた二人。物語は忠兵衛の実父・孫兵衛と、梅川とのやり取りを中心として展開します。現代の恋物語にも流行りがある様に、『遊女と誠実な若者』の恋物語には誰もが憧れを抱いたのでしょうね。大罪を犯した大恋愛は、更にその憧憬を燃え上がらせます。

非難を重ねながらも、我が子を想う孫兵衛。親子が絆を交わした後、物語は大きく動きます。

二人を逃がした直後、躍動的な追手の姿は実に流暢で、人形劇とは思えない程に滑らかです。流れる様な展開の後、我が子へと手向けの言葉を送る孫兵衛の寂しき姿を映しながら、物語は幕を閉じます。

 

最後を飾る『釣女』は、ある殿様と従者が嫁御を釣り上げるという滑稽な物語です。今まで重たい物語が演じられただけに、その様子は実に愉快で、劇場内にも笑い声が上がっておりました。

頓珍漢な従者の受け答えと、それを生真面目に受け取る殿様の様子が、更に笑いを誘います。

気持ちのよいドタバタ劇と小芝居を演出し、今回の演目は拍手と共に閉幕を致しました。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
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