ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

13.酒が仇と思えども

【紹介日】
2023.2.2(木)


【今回の物語】
『酒が仇と思えども』

 

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【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

中島要


【出版日・公開日】
2021年2月20日


【出版元・製作元】

祥伝社

 

【あらすじ】
酒で悩んでいる人に手を貸したい。幹之助がそう言い出した時、親はもちろん奉公人まで目を丸くした。

酒屋の主人になるのなら、酒の功罪を知っておきたい。並木町の七福は酒を売りつけるだけではない。後の事まで気を配ると世間で思ってくれれば、客がさらに増えるはずだ一一。

それから二年、さまざまな、中にはとんでもない相談も、幹之助のもとに持ち込まれた……。(裏表紙より引用)


【感想】

愛する人との結婚間近にしながら、何やら秘密を抱えた娘の葛藤から物語は始まります。酒屋・七福には本当に様々な相談事がやってきます。

酒を断ちたいと悩む娘や、酒の失敗を取り戻したいと悩む酒乱など、その相談は様々ですが、いずれも酒呑みには共感できる所が面白いですね。

機転を効かせながら相談者の悩みを解決していく幹之助。その解決方法には落語の様な起伏を感じさせるものがあると、私は感じました。

 

様々なエピソードが並ぶ中、私が特に印象的に感じたのが故人との絆について酒を通して語られる『極楽の味』でした。とある大工の失敗談と、幼馴染との絆。そこに酒に纏わる約束が絡む事により、物語は意外な方向へと進みます。

酒で失敗した人間からは思わず笑ってしまう様なエピソードが並ぶ中、読後まで感動に浸ることの出来る物語が突然現れた事に、思わず目頭が熱くなります。

『極楽の味』を断り、親友との思い出の味を心に留める事を選ぶ青年。その様子は清々しく、とても気持ちが良い読後感が心に残りました。

 

最後に幹之助自身の酒に纏わるエピソードが綴られて、物語は幕を閉じます。

相談事を受けている時はあんなに底深く感じられた幹之助も、自身の事となると途端に浅はかになり狼狽する様子が実に面白いです。その締め括りも見事な落ちが付き、本当に落語を拝聴した様な痛快さがありました。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
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