16.砂の上の1DK
【紹介日】
2023.9.29(金)
【今回の物語】
『砂の上の1DK』
【作品媒体】
小説
【著者・監督】
【出版日・公開日】
2022年9月1日
【出版元・製作元】
角川文庫
【あらすじ】
産業スパイの青年・江間宗史は、任務で訪れた研究施設で昔なじみの女子学生・真倉沙希未と再会する。追懐も束の間、施設への破壊工作に巻き込まれ……瀕死の彼女を救ったのは、秘密裏に研究されていた未知の細胞だった。
「わたし、は一一なに一一?」沙希未に宿ったそれ=呼“アルジャーノン”は、傷が癒え身体を返すまでの期限付きで、宗史と同居生活を始めるのだが一一窓外の景色にテレビの映像ら机上の金魚鉢……目に入るもの全てが新鮮で眩しくて。
「悪の怪物は、消えるべきだ。君の望みは、間違っていないよ」終わりを受け入れ、それでも人らしい日常を送る“幸せ”を望んだ、とある生命の五日間。
(裏表紙より引用)
【感想】
鳥頭はあまり著者買いをしないのですが、今回の物語は著者が誰か気が付いた瞬間にレジへと駆け込みました。
独特な世界観と、心に響く恋愛劇。
『終末なにしてますか?』の作者様が現代を舞台とした物語を描かれていた事に驚きました。
裏の世界を生きる宗史の日常は本当に目まぐるしいですね。
駆け足に主要人物と背景が紹介されると、気付けば事件が勃発。宗史はその過程で、物語のキーパーソンとなる存在“アルジャーノン”と接触します。
物語はアルジャーノンと宗史を主軸に進むのですが、その導入・展開が実に面白いです。僅かな機会から知識を蓄えて進化するアルジャーノンと、その様子に戸惑う宗史。
人間を理解し得ないアルジャーノンが、あっという間に不思議な少女へと変化していく様子には、思わず読者ですら戸惑いを覚えます。
自我を持ちながらも、自身が消え去ることを受け入れた言動を繰り返すアルジャーノン。
歪な日常を重ねる二人ですが、アルジャーノンが人間の“絆”に興味を持った事から、物語は次の段階へと移行を始めます。
宗史の過去、アルジャーノンの存在、沙希未を始めとした周囲の人物たちの立ち位置。
濃密な情報が詰め込まれたながらも、この世界はたった五日間、たった1DKの空間を核として構成されている。改めて考えてみても、狐につままれた様な心地です。
アルジャーノンのある行動から宗史は動かざるを得ない状況となり、それはクライマックスへの引き金となります。
頭でっかちかと思いきや、決意した宗史は完全に武闘派です。当事者の言葉を借りるなら「一人で集団戦を展開する狂人」です。
突如として巻き起こった大立ち回りと共に物語は終幕へと突き進みますが、その結末も踏まえて鳥頭としては“心地よい”と感じる幕の引き方でした。
これは、丁寧な展開の賜物だと私は受け取りました。一見するとご都合主義に映りますが、納得が出来る奇跡。
鳥頭はハッビーエンドが大好きですが、歪な展開には一気に興が冷めてしまうんです、難儀な性格です。
しかし、この物語は最後の一頁まで快く捲る事が出来、読後には大きな息が零れてしまいました。
後書きの作者様の言葉にて「ここで書く予定だったことを、色々とつまみ食いしちゃっていて、慌てた。」とありましたが、これは間違いなくあの少女のことですね。
『くとり、がんばれっ』
お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
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