ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

7.線は、僕を描く

【紹介日】
2022.2.28(月)


【今回の物語】
『線は、僕を描く』

 

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【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

砥上裕將


【出版日・公開日】
2021年10月15日


【出版元・製作元】

講談社文庫

 

【あらすじ】
筆と水。そして筆だけで森羅万象を描き出そうという試み、水墨画。深い喪失の中にあった大学生の青山霜介は、巨匠・篠田湖山と出会い、水墨画の道を歩み始める。湖山の孫娘・千瑛ら同門の先輩をはじめ、素晴らしい絵師との触れ合いを通し、やがて霜介は命の本質へ迫っていく。(裏表紙より引用より引用)


【感想】

水墨画をテーマとした物語とは、なかなかに渋いところを攻めた作品だと私は感じました。

テーマ通りに職人気質が目立つストーリー構成。様々な技法が登場する様子には水墨画自体の面白さも感じられ、実に読み応えがある作品だと私は感じました。

学生生活、職人としての感性、辛い過去からの成長。突然訪れた様々な出来事に順応していく主人公・霜介の様子に、ゲームの主人公の様だと感じたのはきっと私だけでは無いと思います。

しかし、そんな彼が『恋愛』を経験しない事には正直驚きました。最初に衝突したとある人物との距離が縮まる様子に、鳥頭の恋愛脳は「いつこの恋は動き出すんだ!」と活動を進めていたのですが、最後までお互いに意識をしない様子には肩透かしを食らったような感覚と共に、「このずれた関係もまた、職人故かもしれないな」という不思議な納得を感じました。

 

作中では様々な水墨画の表現が語られるのですが、その技法や絵画が文章から滲み出る様な表現力は、作者様の優れた技量なのだろうなと感心しました。

私の様な絵心を持たない鳥に対してもその芸術作品の素晴らしさをひしひしと感じさせるのは、それだけ濃密な情報量を一文に詰めているからだと思います。作者様は水墨画について何か経験があるのかもしれませんね。

 

霜介の飛躍は正直上手く出来すぎている様に感じますが、彼が急成長を見せることがこれだけの情報量をまとめあげている秘密なのかもしれませんね。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
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