ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

1.弾正の蜘蛛

【紹介日】
2021.12.16(木)


【今回の物語】
『弾正の蜘蛛』

 

f:id:birdheads:20211216231024j:image


【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

雨木秀介


【出版日・公開日】
2014年5月20日


【出版元・製作元】

富士見書房

 

【あらすじ】

永禄十一年。戦国の梟雄、弾正忠・松永久秀は、上洛を成した織田信長に恭順を示した。それば、少年の日に生きる術を教えてもらった男、斎藤道三の最期を知るため。あの言葉「蜘蛛を抱いて死ね」が真実の呪いであるかを知るため一一。

弑逆、謀略、裏切りの数々をし、戦国一の大悪人と呼ばれた松永弾正。その秘められた想いを描く。(裏表紙より引用)


【感想】

『梟雄』の代表者として語られる戦国時代の大名・松永久秀。この小説は彼の手段を選ばぬ成り上がりの様子を綴ると共に、その意外な理由を語る様子が特長的ですね。

幾度も君主を変えながら、我欲の為に生きる久秀。

そんな彼の生き様・目的を変わった目線で捉えたのが、今回紹介する物語となります。

親によって人買いに売られ、底辺を生きてきた犬丸。後に松永久秀と名乗る彼は、人買いから逃げた先で庄九郎に拾われた事から人生の転機を迎えます。

 

庄九郎、後の斎藤道三。彼が松永久秀に与えた影響は本当に大きいです。松永久秀が生涯をかける事となる娘・やえとの出会い。彼が織田信長の元へと向かうきっかけとなる存在、濃姫の父。

斎藤道三によって生き方を学んだ久秀は一国一城の主へと成り上がるのですが、その軌跡を簡潔に描く様子がまた、興味深いです。

 

通常、戦国時代を題材とした小説といえば立身出世の様子を取り上げるものが多いと思います。特に全てを利用して成り上がる久秀の様な人物であれば尚更かと思います。

しかし、この物語では大名としての姿ではなく、彼の生きる目的、戦国の世すら利用した大恋愛の様子を常に中心として動きます。

幻術師と共謀して世の中を掻き乱す久秀と幻術師。

近畿・大和という土地柄がその捻れた世界に拍車をかけます。

 

自身の観察眼と幻術師の情報を駆使して時代を操る久秀。時には自信を危険に晒し、敗者になる事も厭わずに行動する姿には周囲も困惑を隠せません。

自国の民すら巻き込み、自身の思うままに行動を重ねる久秀。作中では彼の飄々とした姿と不安に怯える兵士の姿が対比的に描かれており、その自由気儘な様子が殊更に印象に残ります。

 

最後の場面にてやえと笑い合い、自分らしさを貫き通す久秀。自分勝手な生き方を反芻しながら『爆死』という豪快な死に様を選ぶ彼の様子が、読後まで印象に残りました。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
- See you next story ! -