ビブロフィリアの書斎

鳥頭が鑑賞した物語の紹介

3.少女キネマ

【紹介日】
2022.1.26(水)


【今回の物語】
『少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語』

 

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【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

一肇


【出版日・公開日】
2017年2月25日


【出版元・製作元】

角川文庫

 

【あらすじ】
2浪の果てに中堅お坊ちゃん私大に入学した、十倉和成20歳。ある日、彼のボロ下宿の天袋からセーラー服姿の少女が這いおりてきた。少女・さちは5年前から天井裏を住処にしてきたという。九州男児的使命感に燃えた十倉はさちを庇護すべく動きだした。そしていつしか、自らの停滞の原因一一高校時代の親友であり、映画に憑かれて死んだ男・才条の死の謎に迫っていく。

映画と、少女と、青春と。熱狂と暴想が止まらない新ミステリー。(裏表紙より引用)


【感想】

ノスタルジックな物語ですね。『めぞん一刻』を彷彿とさせる様な横の繋がりが色濃い学生寮に住まう、一癖も二癖も、三癖もある貧乏学生達。その中の一人、十倉を主人公として物語は進行します。

自分なりの拘りを強く持ち、所有物に名前を付けるのを好む九州男児、十倉和成。正直、この設定自体に伏線が張られていた事には驚かされました。

自身が名前を与えて愛用していた道具たちが誘拐されている事に気付き、憤慨する十倉。彼が屋根裏に住まう少女・さちと出会う事から物語は動き始めます。

十倉は様々な意味で暴走を繰り返し、それが物語を進めます。成人男性としての暴走、学生としての暴走、クリエイターとしての暴走。こんなに慌ただしい主人公は稀有かもしれませんね。

 

個人的には、クリエイターとして彼が動き始めてからの展開が殊更に印象的に感じました。周囲を引き摺り回して今は亡き友人、才条の映画を完成させる為に奔走する様子は痛快でしたね。

強行の撮影に、怒濤の恋愛劇。その慌ただしい展開には、思わず笑い声を上げてしまいました。しかし、その熱量の塊こそがこの作品の本質なのだと、私は強く感じました。

最後に明かされる想定外の大恋愛劇には本当に驚かされました、その展開から才条は同性愛者だったのかと誤認すらしましたね。

 

最後に明かされるさちの正体。その展開には最初は疑問すら抱きましたが、さちが嫉妬する様子やその奇妙な言動を振り返ると、なるほどと感じさせられました。

読後に気が付いたのですが主人公は“暴走王”ではなく“暴想王”なんですね、その多感に動き回る様子を眺めていると妙に納得させられましたね。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
次回も宜しくお願い致します!
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2.崩れる脳を抱きしめて

【紹介日】
2021.1.2(日)


【今回の物語】
『崩れる脳を抱きしめて』

 

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【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

知念実希人


【出版日・公開日】
2020年10月15日


【出版元・製作元】

実業之日本社

 

【あらすじ】
広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の碓氷は、脳腫瘍を患う女性ユカリと出会う。外の世界に怯えるユカリと、過去に苛まされる碓氷。心に傷をもつふたりは次第に心を通わせていく一一。実習を終え広島に帰った碓氷に、ユカリの死の知らせが届く。彼女は死んだのか?ユカリの足跡を追い、碓氷は横浜を彷徨う。驚愕し、感動する、恋愛ミステリー(裏表紙より引用)


【感想】

ホスピスで研修を重ねながらも、自分もまた心に闇を抱える主人公・碓氷。爆弾を抱えながらも懸命に生きるホスピスの患者たちと碓氷との交流、そして彼がとある患者に抱く恋心が印象的な物語ですね。

家庭の事情から金銭に執着し、自分を追い込み続ける碓氷。彼の様子を心配するヒロインが頭に爆弾を抱える患者というのが皮肉めいておりますね。

 

お互いに踏み込み過ぎて衝突をしながら、理解を深め合う碓氷とユカリ。とある患者の死をきっかけとして二人が再び離れていく場面を迎えた時、『ホスピス』という存在のあり方について考えさせられると私は感じました。

NDR指示』

植物状態となった際に「何をもって死と判断するか」という問題がありますが、ホスピスにおいては延命治療を拒否する指示があることが、私は衝撃でした。

確かにそうした願いはあるのかもしれませんが、患者からの事前申請システムがある事が、私には理解が出来ておりませんでした。

患者の治療を止めたユカリ。しかし、彼女はNDR指示が申請されていた事を理解していた訳ではありませんでした。この出来事を巡った議論の中で二人は決定的なすれ違いをします。

 

怒りを隠せずユカリを避ける碓氷。しかし、とある患者から「ホスピスで生きる者の覚悟」について聞かされた時、彼は再びユカリに歩み寄る決意と共に自分の秘密を彼女へと打ち明けます。

ここから描かれる二人の恋物語と、碓氷の過去に対する解釈のシーンは実に読み応えがありますね、グッと物語に惹き込まれていきます。

様々な局面が急激に進展する中、ユカリの死によって物語は大きな変化を迎えます。

 

ホスピスを離れている僅かな間にユカリの爆弾が破裂した事を知った碓氷。彼が慌てて戻った時、物語は奇妙な歪曲をみせます。碓氷とユカリの接点を否定する人々に対し、一時は自身を信じられなくなり、全てに絶望をする碓氷。しかし、今までの思い出を必死に手繰り彼女の痕跡を見つけた彼は、ユカリの死の真相について調査を始めます。

調査が進む中で、何度も疑問点にぶつかる碓氷。しかし、ある重大な秘密に気付いた事で、その調査は一気に進展を迎えます。

 

正直、この秘密には本当に驚かされました。今まで作り上げていたパズルが全く違う絵だったと気付かされ、そのピースが碓氷によってカチリと嵌め直された時、『ふたつの恋物語』は感動のクライマックスを迎えます。

特に中盤までは碓氷の家庭が抱える闇とその真なる姿に視線が引かれてしまう為、ホスピスに隠されていた秘密については全く気付くことが出来ないと私は感じました。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
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1.弾正の蜘蛛

【紹介日】
2021.12.16(木)


【今回の物語】
『弾正の蜘蛛』

 

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【作品媒体】

小説

 

【著者・監督】

雨木秀介


【出版日・公開日】
2014年5月20日


【出版元・製作元】

富士見書房

 

【あらすじ】

永禄十一年。戦国の梟雄、弾正忠・松永久秀は、上洛を成した織田信長に恭順を示した。それば、少年の日に生きる術を教えてもらった男、斎藤道三の最期を知るため。あの言葉「蜘蛛を抱いて死ね」が真実の呪いであるかを知るため一一。

弑逆、謀略、裏切りの数々をし、戦国一の大悪人と呼ばれた松永弾正。その秘められた想いを描く。(裏表紙より引用)


【感想】

『梟雄』の代表者として語られる戦国時代の大名・松永久秀。この小説は彼の手段を選ばぬ成り上がりの様子を綴ると共に、その意外な理由を語る様子が特長的ですね。

幾度も君主を変えながら、我欲の為に生きる久秀。

そんな彼の生き様・目的を変わった目線で捉えたのが、今回紹介する物語となります。

親によって人買いに売られ、底辺を生きてきた犬丸。後に松永久秀と名乗る彼は、人買いから逃げた先で庄九郎に拾われた事から人生の転機を迎えます。

 

庄九郎、後の斎藤道三。彼が松永久秀に与えた影響は本当に大きいです。松永久秀が生涯をかける事となる娘・やえとの出会い。彼が織田信長の元へと向かうきっかけとなる存在、濃姫の父。

斎藤道三によって生き方を学んだ久秀は一国一城の主へと成り上がるのですが、その軌跡を簡潔に描く様子がまた、興味深いです。

 

通常、戦国時代を題材とした小説といえば立身出世の様子を取り上げるものが多いと思います。特に全てを利用して成り上がる久秀の様な人物であれば尚更かと思います。

しかし、この物語では大名としての姿ではなく、彼の生きる目的、戦国の世すら利用した大恋愛の様子を常に中心として動きます。

幻術師と共謀して世の中を掻き乱す久秀と幻術師。

近畿・大和という土地柄がその捻れた世界に拍車をかけます。

 

自身の観察眼と幻術師の情報を駆使して時代を操る久秀。時には自信を危険に晒し、敗者になる事も厭わずに行動する姿には周囲も困惑を隠せません。

自国の民すら巻き込み、自身の思うままに行動を重ねる久秀。作中では彼の飄々とした姿と不安に怯える兵士の姿が対比的に描かれており、その自由気儘な様子が殊更に印象に残ります。

 

最後の場面にてやえと笑い合い、自分らしさを貫き通す久秀。自分勝手な生き方を反芻しながら『爆死』という豪快な死に様を選ぶ彼の様子が、読後まで印象に残りました。

 

お立ち寄り頂きまして、ありがとうございました。
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0.はじめに

皆様、はじめまして。

この度は私のブログをご閲覧頂きまして、ありがとうございます。


私、関西圏を拠点として生息しております渡り鳥でして、名を『鳥頭』と申します。


当ブログは自称・愛書狂の鳥頭が近日に鑑賞した物語の紹介を主としたものとなります。

私の個人的な意見や感想が主となる為、一般的な解釈とは異なる場合がございますので、ご注意ください。

更新頻度は毎週1回~2回程度となりまして、DVD等の視聴覚作品についても掲載をさせて頂きます。


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